CV・CGの徒然日記

研究者の観点からオモロイと思ったCV(コンピュータービジョン)、CG(コンピューターグラフィクス)、HCIなんかの論文やらを忘備録がてら紹介します。

カラダの中身を転写する ”Anatomy Transfer”

最近、解剖学的なアプローチの研究に興味があるので、その中から衝撃的だった研究を忘備録がてら紹介する。

Anatomy Transfer

Dicko Ali-Hamadi, Tiantian Liu, Benjamin Gilles, Ladislav Kavan, Francois Faure, Olivier Palombi, Marie-Paule Cani

Proceedings of SIGGRAPH  ASIA 2013

 

Fast Forward (CGの学会では、自分の発表に興味を持って見に来てもらうために、ファストフォワードという1分弱の中で自分の研究を紹介するセッションがある。仮装したりコメディ調で笑いを取りに来る人がかなり多くて、ある意味一番の見どころかもしれない笑)


Anatomy Transfer Fast Forward - YouTube

 

Long Version (Demo)


Anatomy Transfer - YouTube

 

まとめ(普通の人向け)

MRIなどの、解析技術の発展により、人体のかなり精密なスキャンデータが取れるようになってきている。これによって、筋肉等も考慮した精密なシミュレーションができるようになったり、医療だけでなくCGや教育方面への応用なども期待されている。かといって、全員のカラダを長い時間かけてスキャンするのは大変なので、一つの精密な内臓モデル(筋肉、血管、骨、内臓、脳みそなど全部)を違う体に転写しちゃいましょうという研究。最大の肝は、体型がまったく異なったり、ポーズが異なったりするときでも内臓転写ができるというもの。(論文中では、シンプソンズのお父さんやポパイ、オリーブ、ダビデ像(!)や狼男なんかにも内臓を飛ばしている。上のムービーは必聴)

この汎用性と、解剖学的知見をしっかりあわせもてれば、表面の3Dスキャンだけで、内臓のスキャンまで済んでしまう。。。といった未来もそう遠くないかもしれない。ソースが見つからなかったが、噂によると今年のEurographicsで企業ブースがあったそうなので、どうやらこの研究をもって起業したらしい。近いうちに、どこかのメディアに取り上げられて目にする機会が増えるかもしれない。

忘備録(研究者向け)

転写のメソドロジー

結果がすごいので、ものすごく恐ろしいことをやっているように見えるが、コアの手法自体は比較的シンプル。大まかにいうと

  1. インプットのボディと、転写先のボディの表面のスキンの対応付け
  2. 転写先のボディの皮下脂肪を埋め込む(MRIなどの解剖学的アプローチで厳密にやる方法だけでなく、シンプソンのような架空のキャラにも適用するためファットマップと呼ばれるツールを使って皮下脂肪の厚さを調節できる)
  3. インプットのボディから骨だけを転写先のボディに内挿
  4. 転写先のポーズが左右非対称な場合(e.x.,ダビデ像)、骨がいびつに歪んでしまったり対称性が失われるので、骨はアフィン変換に限定し、弱いばねでポジションをコントール
  5. 皮下脂肪と骨の間に内臓が同じバランスで分布してる仮説のもと、Laplace Interpolation(画像の空白部分の穴埋めなんかに使われる手法を3次元拡張。境界条件はインプットの皮下脂肪と骨の境界部分)によって内部を埋める

といった感じ。要は、境界部分をしっかりと設定すれば、中はそれっぽく補完されてくれるということ。空間中に何かを埋め込んで、転写するというアイデアは、それなりに応用性がありそう。もしかしたら使えるかもしれない。

 

ポーズに依存せず、表面スキンの対応付けだけでここまで行くのは、にわかには信じがたい。ボーンの転写部分についてはもう少し読み込んでみようと思う。